e読書ラボ
本の街・神保町に小さな実験室ができました。
住所
アクセス
お問い合わせ

e読書ラボオープン1周年

2012/10/05 by ラボ長
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


e読書ラボは、おかげさまで2011年9月30日のオープンから満1年を迎えることができました。この1年の間でも多種多様な電子書籍が読める端末が発売され、電子書籍関連サービスが多数登場し、電子書籍業界は大きく成長したと言えます。しかし周囲を見回すと、電子書籍を購入したこともない、見たこともないといった人々もおり、電子書籍に興味のない人から見れば、1年前の状況とはなんら変わっていないとも言えます。e読書ラボでは、電子書籍未経験者に向けて読書体験を提供することをサービスの第一義にしているため、このような現況ではまだまだ存続する意義がありそうです。本稿ではe読書ラボ長として、この1年間のe読書ラボと電子書籍について感じてきたこと書き記していきます。

e読書ラボ

オープン当初は、移動中や仕事帰りの会社員が多数見受けられるとともに、神田神保町という場所柄、出版関係者が多く来場しました。しばらくすると、いかにも仕事で来たという風姿の人は少なくなり、古書店街に訪れたついでに立ち寄った感じの来場者が多数を占めるようになりました。現在では電子書籍端末を目的に来る来場者は、それほど多くはないですが、それでも新聞やテレビで電子書籍が体験できるコーナーとして本ラボが紹介されると、記事を読んで来たという来場者が一時的にどっと増えます。こんな感じでまだまだ電子書籍未経験者へのアピールができていないのと、あと、地方の方々にどうすれば電子書籍を体験してもらうかというのが、今の課題です。

来場者が手に取る端末は、KoboやSony Readerといった電子ペーパー搭載端末が多く、初めてE Inkの画面で文字を見たという感想をよく聞きます。本ラボにはAmazonのKindleもおいてありますが、現状ではアメリカのサイトから直接購入する方法しかなく、Kindleを購入する前に実際に触っておきたいという方もいました。また、BookPlaceや東芝のTabletのブックリーダーに備わっている自動音声読み上げ機能を実際にきいてみたい、という目的で来場する方もいました。

本ラボでの人気のコンテンツに『元素図鑑』や『動く動物図鑑』といった図鑑系のコンテンツがあります。紙と電子で実際に両者を比較すると、写真の美しさは紙の印刷にかないませんが、電子版にある、対象が動くというインパクトは大きく、電子書籍ならではといえます。同様に絵本コンテンツも触ると音が出たり、動いたりと面白い反応があるため、紙では味わえない楽しさがあります。近頃コンテンツして注目されているのが、原画に彩色を施したカラー版コミックで、発色のきれいな液晶端末でみると従来の紙の白黒版とはまったく異なる印象を受けます。個人的には7インチの液晶端末が大きさ見やすさともに最適で、紙のコミックを超えたかなぁと思います。

来場者からの質問では、操作方法や端末の特徴、インターネット接続が必要か、といった基本的なことがオープン当初から尋ねられますが、しばらくしてから購入に関する質問が増えてきました。どこにいけば電子書籍端末が購入できるのか、端末の値段はいくらするのか、コンテンツはどのようにして買うのかなどなど。多くの電子書籍ストアが出現し、端末の値段も安くなって来たことで、様子見の段階から、具体的に購入を検討する段階になってきたように思えます。

本ラボが併設されている「本と街の案内所」では、絶版本を探して求めてくる読者が多数来場しますが、どこの古書店でも見つからないことがよくあります。そんなとき、電子書籍で再版されているよ、とお教えできればよいのですが、まだ一度もそのような解決に至ったことはありません。出版デジタル機構が発表するように100万冊のタイトルが電子化され、欲しいときにいつでも手に入る状況が本当に訪れれば、この問題は解決していくのでしょう。

電子書籍について思うこと

一口に電子書籍といっても、電子書籍端末、電子書籍制作、ファイルフォーマット、ストアなど幅広い世界ですので、ここでは消費者目線で電子書籍サービスについて述べたいと思います。

1年前のオープン当初は、電子書籍は購入した端末あるいはアプリでのみしか読めませんでしたが、その後、3台や5台までという制限のもと、専用端末、iOS、アンドロイド、PCなどマルチデバイスで読めるようになってきました。購入した書籍はインターネット上の仮想本棚にあり、読みたいときにダウンロードします。これが、いわゆるクラウド化というもので、どこまで読んだかのしおりの同期や読書メモの共有もできるようになりました。また、ダウンロードした端末を紛失・破損した場合や、新規に機器を購入した場合でも継続して読めるという安心感もクラウド化によって得ることができました。

一方で、楽天の電子書籍ストアRabooがサービスを停止し、購入した電子書籍は半年の猶予の後、ダウンロードができなくなると発表されました。ダウンロードした端末の使用をやめると、中に入っている本も読めなくなります。従来の紙の本の延長で書籍を考えると、形があれば未来永劫読めるものと捉えがちですが、電子書籍には形がありません。物を購入するのではなく、読む権利を購入する形式をとるため、事業者の論理で権利が消滅してしまうのは致し方ないことかもしれません。個人的には、購入した書籍を読む権利は継続するサービス(Rabooであれば楽天kobo)に自動的に継承されるとよかったと思っています。

電子書籍のクラウド化は最初にアメリカのAmazonが押し進めてきたことであり、ようやく日本の各ストアも追いついてきた感があります。もし1年前にAmazonのKindleが日本に進出していたら、日本の電子書籍業界の勢力図は大きく変わっていたと思います。日本の電子書籍ストアが、Amazonが先行するサービスを実現するかたわら、Amazonにないサービスとして、リアルな店舗との連携を始めています。大手書店とストアが提携し購入ポイントを共有するところから始まり、現在では三省堂とBookLiveで始まったように電子書籍の購入が店頭決済でできるようになりました。若年層を中心にクレジットカードを持っていない人々にとって、電子書籍の購入は難しいことでしたが、現金で電子書籍が気軽に購入できるようになると購買層は広がります。一歩進めて、リアルな店舗に行けばお試しのページ数が増えるとか、限定割引パックが購入できるとか、消費者が足を運ぶ気になるサービスの実現が望まれます。

もう一度Amazonに戻って、Amazonの強みの1つがリコメンド機能です。「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という文句のもと購買履歴を基に関連する書籍のリストが表示されるものです。もちろん他人の購買傾向なので自分の好みとは異なるのですが、自分で思いもしていなかった興味深い書籍がリストに表示されることもしばしばあります。さらに、購入するかどうかを判断する材料として読者によるレビューが用意されています。レビューに対してもステルスマーケィングやネガティブキャンペーンが多いなど批判はありますが、それでも全体の傾向としての評判や、書籍の詳しい内容を知ることで購入への動機付けになることは多いと思います。日本の電子書籍ストアもこれらに力を入れることも必要ですが、思いかげない本との出会いというのは、従来のリアルな店舗の書棚でも十分実現できています。今後、リアル店舗との連携により実現していくとともに、Web上のストアでもすばらしい書籍と出会えるようなサービスを実現してほしいと思っています。

望むサービスの1つは、子供向けのサービスです。身近な子供に贈るギフトの代表格として図書券・図書カードがありますが、電子書籍の世界になると、現時点では各ストアが独自に用意しているギフトカードやポイントなってしまい、贈り側はまず相手が所有している端末を調べなくてはなりません。全国の書店で使える図書券のような存在が電子書籍でも望まれます。そして、ギフトカード・ポイントについて、購入できるジャンルを指定することはできないでしょうか?ある子供向けのギフトカードは児童書限定であるとか、このポイントは参考書だけ買えるといったものです。夏の〜文庫100冊の中の本だけ購入できるポイントがあってもいいと思います。電子書籍により購買システムが電子化されるのなら、購入形態を自由に設定できる仕組みができるのではないでしょうか?

最後に、私個人が電子書籍をどのように扱っているかについて述べておきます。仕事柄、多様な端末で電子書籍を実際に購入し読んでみることはしていますが、個人的に読むものについては紙の書籍を購入しています。ただ、紙で買ってもすぐに断裁しスキャンする、いわゆる自炊を行って、E Inkの電子書籍端末で読書をしています。大きな理由としては、電子書籍で購入すると、限定した端末やアプリでしか読めない、家族に貸与できないなど紙の書籍に比べて個人利用に制約が出てきてしまうからです。さらに私がやりたいことは、所有している本全体を対象とした横断検索や、ある人名や場所に対する記述を抽出して集計するといった分析を行うことで、現状では市販の電子書籍はDRMがあるためこれらのことができません。自ら購入した電子書籍の扱いの自由度の向上、これが私の将来の電子書籍に望むことです。書籍よりずっと早くから電子化の波にさらされた音楽についてはDRMなしのフォーマットが販売されるようになりましたし、ハリーポッターの電子書籍では簡易的なDRMが採用されていますので、近いうちに実現するかもしれません。